近年子供の虫歯はかなり少なくなりました。
歯科予防に関する情報が広く知られるようになったことや、公的健診の実施、歯科予防グッズの充実などがその理由としてあげられます。
子どもを虫歯にしたくないという強い思いをもって子育てに頑張っているお母さん方には頭が下がる思いです。
それでも日本の虫歯の罹患率は、海外に比べまだまだ高いのが現状です。
歯科先進国になるのはもう少し先のようです。
乳歯の虫歯罹患率の変遷
さて、前述のように乳歯の虫歯の罹患率は年々減少しています。
平成28年度の歯科疾患実態調査報告を基に、乳歯にう蝕(虫歯)を持つ人の割合を永久歯が生えはじめる6歳でみると
1993年:88.4%
2005年:63.4%
2011年:42.1%
2016年:45.5%
となっています。
1993年当時と比較して、約半分に減少していますが下げ止まりの状態ともいえそうです。
いまの40~50代くらいの世代が子どもだった1993年より前のオイルショックの頃、スナック菓子などが流通し始めて虫歯が急増したという話は歯科業界では有名な話です。
その人たちが親となり、当時のことを教訓として子供の虫歯をなくそうという努力をしてきたことも関係しているかもしれません。
しかしそれでもまだ半数近い子どもに虫歯ができているという現状は目を背けるわけにはいきません。
<スポンサーリンク>
乳歯の生え方を知ろう
乳歯の虫歯と永久歯との関係を知るには、乳歯の生え方について正しく知っておくことが必要です。
そこで時系列で乳歯のでき方と生え方を整理してみましょう。
〇胎生7~10週(妊娠2~3ヶ月頃)
歯の芽である歯胚ができ始めて成長を始める
〇出生時
まだ歯は生えていない
〇生後6~8ヶ月頃~
下の前歯から上の前歯の順に生えてくる(乳中切歯…A)
続いてその隣の歯が生える(乳側切歯…B)
〇生後1歳半頃
ひとつ離れて奥にある奥歯が生えてくる(第1乳臼歯…D)
〇生後2歳ごろ
BとDの間に犬歯が生えてくる(乳犬歯…C)
〇2歳半~3歳ごろ
一番奥に最後の奥歯が生えてくる(第2乳臼歯…E)
個人差はありますが、こうして3歳くらいを目途にすべての乳歯が生えそろいます。
この頃には、食べ物や歯磨きを親が管理していた時期と違って自我が芽生えます。
既に甘いおやつや飲み物の味も覚えて大人と同じような食事をしているので、虫歯の罹患率がぐんと上がると言われています。
永久歯ができるタイミングを知る
永久歯は思っているよりも随分と早くからその準備が始まっています。
最初の永久歯はなんと妊娠3ヶ月半頃にはもう歯の芽である歯胚ができ始めます。
やはり1番早いのが中切歯と呼ばれる前歯です。それから次々と歯胚ができ始め数年かけて成長します。そして6歳ごろに最初の永久歯が第2乳臼歯の奥に生えてきます(第1大臼歯または6歳臼歯…6番)
つまり、永久歯は早い時期から乳歯と並行して成長し、生え代わりの位置にスタンバイしていることが分かります。
乳歯の虫歯は永久歯に影響するのか
永久歯は、乳歯の赤ちゃんがまだでき始めの頃には既に準備が進められていることがわかりました。
しかし、先に生える乳歯は成長と共に虫歯のリスクにさらされることになります。乳歯はとても柔らかくてダメージに弱いので、虫歯のなりやすさは永久歯より格段に高いのです。
また、歯の組織であるエナメル質や象牙質が薄いのであっという間に進行するのが特徴です。子どもは痛みを感じてもうまく伝えられないことも多く、気づけば穴が開いていたり神経まで到達して歯茎が腫れているケースもしばしば見られます。
それでは、乳歯に虫歯ができてしまうと永久歯にどのような影響があるのでしょうか。
その影響について具体的にあげてみましょう。
1.永久歯も虫歯になりやすくなる
乳歯に虫歯ができると口腔内の細菌が増えます。
まして、虫歯を放置したりたくさん虫歯ができてしまうと細菌の数は当然増え続けることになります。
口の中の細菌バランスは、およそ3歳までに決まると言われています。小さい頃から虫歯がある状態だと、虫歯の細菌が多い状態で成長いていくことになり、永久歯も虫歯になるリスクが高まることになります。
また、口の中に虫歯の細菌が多い状態にあると、永久歯が生えてくる途中に虫歯になってしまうこともあります。
2.永久歯の発達を阻害する
埋もれている永久歯の赤ちゃんの頭の上にある乳歯は外の世界に顔を出して細菌にさらされています。
そして乳歯が虫歯になり細菌が神経まで到達してしまうと、赤ちゃん永久歯の頭の上にはたくさんの菌が入り込み増殖を続けることになります。
すると成長途中の永久歯の一部がきちんと形成されなかったり、変色やいびつな形の歯になることがあることがわかっています。
3.偏食傾向になる
乳歯に虫歯ができると、食べ物や食べ方によっては痛むことがあります。
食べ物が詰まる、しみる、固いものを噛むと痛い、といった症状を感じると、子どもは症状がでにくく食べやすい食べ物に偏って食べるようになり偏食になる傾向にあります。
4.顎の骨の成長が悪くなる
虫歯になると、固いものや歯応えのあるものがうまく噛めなくなります。
成長期にある子どもは、噛むことによって顎の成長を促すことが分かっていますので、柔らかいものや食べやすいものばかり食べていると、顎の発達成長が妨げられ、噛む力が落ちてしまいます。
5.歯並びが悪くなりやすい
虫歯によってしっかり噛めなくなると、顎の成長が妨げられることによって永久歯が生える時にスペースが足りなくなり歯並びが悪くなる傾向にあります。
他にも、酷い虫歯で生え代わりのタイミングより早く抜歯するなどのイレギュラーが起こると、永久歯が生えてくるべきスペースがうまく確保できなくなることがあります。
すると永久歯はそこを避けて、余裕のある別な位置から生えてくることがあり歯並びが悪くなってしまいます。
6.生え代わりがうまくいかなくなる
永久歯が生え変わるとき、乳歯の根が先端から徐々に溶けてなくなりぐらぐらして抜けるのが正常な生え代わり方です。
でも、乳歯が虫歯になり神経が死んでしまうとこのような正常な生え代わりの反応が起こらず、いつまでたっても乳歯が抜けないで残ったままになってしまいます。
そのため、自力で自然な生え代わりができなくなり、レントゲンを撮るなどして定期的に歯科医院でタイミングを確認することが必要になります。
放置するといつまでも乳歯が残ったままになり、歯並びが悪くなるなどの悪影響が出てきます。
<スポンサーリンク>
乳歯の虫歯がたくさんできる原因とは
近頃だいぶ少なくなりましたが、昔は前歯が全部真っ黒になっている子供がいたものです。あれは、サホライドという虫歯の進行止めの薬を塗った後の状態です。
虫歯の部分にだけフッ化ジアンミン銀という薬が反応して黒くなったものです。中には全体に虫歯ができてあっという間に進行してしまうランパントカリエスとも呼ばれる状態の子どももいました。
では、このような多発性の虫歯ができてしまう原因はどこにあるのでしょうか。
それは、単純に甘いものが好きだから、というわけではなく、問題なのはその摂り方です。
特に子どもが大好きな乳酸飲料やカラダによさそうなイオン飲料は注意が必要です。もちろんジュースなども同様ですが、これらの飲み物は糖分を多量に含んでいます。それだけでなく、こういった飲み物は一気に飲むわけではなく時間をかけて飲んだり、ちょこちょこ飲むことが多く、口の中全体を長時間酸にさらすことになります。そのため、一気にあちこちに虫歯ができてしまうのです。
実は、これは子供だけの問題ではなく大人にも見られるんですよ。
まとめ
子どもの歯や歯茎の健康を守るには大人の管理が必要です。中には、「乳歯は生え変わるからまあいいや」と簡単に考えている大人もいます。
でも、乳歯の虫歯は永久歯にさまざまな悪影響を与えること、そして子供の将来的なお口の健康を長期にわたって阻害することを知っておくことが必要です。
それでも、虫歯ゼロを貫くにはかなりの努力が必要であることは間違いありません。
もし虫歯ができたとしても、早期に治療し定期的に検診などでコントロールしていくことが大切です。
虫歯になりにくい生活習慣や歯磨きの習慣などを幼少時から身に着けておけば、成長してからも習慣的に自己管理できるようになることも期待できるのです。
<スポンサーリンク>