以前の歯科治療は虫歯になると削って詰める、あるいは抜く、といった処置が主流でした。
それは、虫歯の細菌に感染した(=虫歯になった)部分を完全に取り除き詰め物に必要なスペースを十分に確保できる量の歯を削るという考え方による治療方針に由来しています。
また、治療の方法や使用する薬剤も現在のように多彩ではなく、治療そのものの選択肢が少なかったことも原因しているといえるでしょう。
したがって、不必要にたくさんの量の歯を削ることになり、歯へのダメージが過大になっていました。
しかし、こういった治療のやり方は現在は否定的となっています。それは、歯にはある程度の自然治癒力が期待できる事が分かってきたためです。
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毎日頻繁に行われている再石灰化
歯冠部と呼ばれる歯の頭の部分の構造を見ると、エナメル質・象牙質・歯髄の3つの組織が層になってできています。
その中で最も外側にあって、常に外からの刺激と闘っているのがエナメル質です。エナメル質は骨より硬く神経のない組織です。
一般的にC0やC1と言われる初期虫歯の状態は、このエナメル質の範囲内で虫歯になっている状態です。このエナメル質は、近頃よく耳にする「再石灰化」という働きを持っています。
再石灰化とは、何らかの原因で破壊されたエナメル質が自ら固い組織を作り修復することを指しています。
実は、口の中は常に過酷な環境にさらされています。食べ物が持ち込まれると口の中の酸性度が高まり、いわゆる虫歯の始まりである酸による溶解が起こっています。つまり何かを食べるたびに虫歯になり始めるのです。
しかし、口の中ではそれに対抗して酸性になっている口の中を唾液が徐々に中性に戻し、エナメル質の表面では再石灰化が行われ柔らかくなってしまった表面が固く修復されるというわけです。この修復が完全に終わるのに1~3時間くらい必要といわれています。
したがって修復が終わるまで再び酸性にならなければ、エナメル質の自然治癒が完了するということになります。
また、C0クラスのエナメル質に限局した虫歯の場合、フッ素入り歯磨き剤を使って毎日丁寧に歯磨きをして清潔に維持すると再石灰化によって虫歯の進行を抑制できるといわれます。
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象牙質の自己修復
C2クラスの虫歯はエナメル質を通し越してその奥の象牙質へと進んだ状態にあります。象牙質は柔らかい組織でしかも歯髄と呼ばれる神経に向かってたくさんの管が通っています。
そのため、冷たいものや熱いものがしみるといった痛みを感じることが多いのです。象牙質まで虫歯が進行すると、麻酔が必要になることがほとんどです。
実は、象牙質と歯髄の境目には象牙芽細胞という細胞があり、常に象牙質を形成しています。この細胞は、虫歯などで象牙質にダメージが加わると新たな象牙質(修復象牙質)を作る働きを持っています。これは、歯髄を保護するために形成されるものであり、広義での自己修復と考えられます。
歯髄を保護して歯の生命そのものを守ろうとする自然治癒活動のひとつともいえますが、虫歯を自然治癒するという点ではやや意味が異なります。
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M.I.という考え方とまとめ
現在さまざまな研究が進み、虫歯の治療については『M.I.』という考え方に基づいた治療が主流となっています。これは、『ミニマルインターベンション(Minimal Intervention)』の略で、最小限の侵襲で治療を行うことを意味する言葉です。
わかりやすくいうと、できるだけ削る量を少なくして歯のダメージを少なくすることを基本とした治療を行うということです。削ることによるデメリットが広く浸透したことの現れといえるでしょう。
歯の自己修復力、つまり自然治癒力を促すことを基盤とした治療や研究が今後もますます進んでいくことでしょう。